# お盆のきゅうりとなすは何?精霊馬・精霊牛の意味と地域差
お盆になると、きゅうりやなすに割り箸を刺し、動物のような形にした飾りを見かけることがあります。
きゅうりは馬、なすは牛に見立てたもので、一般に「精霊馬(しょうりょううま)」「精霊牛(しょうりょううし)」と呼ばれます。かわいらしい形ですが、そこには、帰ってくる先祖を迎え、再び送り出す家族の願いが表されています。
ただし、お盆の習慣は地域や宗派、家庭によって大きく異なります。向きや飾り方を一つの作法として決めつけず、その土地で受け継がれてきた方法を尊重することが大切です。
きゅうりは馬、なすは牛
埼玉県富士見市の難波田城資料館は、かつて関東地方の多くの地域で、きゅうりやなすに竹串などを刺して牛馬に見立て、盆棚に飾ったと紹介しています。
きゅうりの精霊馬には、足の速い馬に乗って少しでも早く帰ってきてほしいという願いが込められます。一方、なすの精霊牛には、帰るときは牛の歩みのようにゆっくりと戻ってほしいという思いが重ねられています。
農林水産省東海農政局の資料にも、迎え盆にはきゅうりの馬、送り盆にはなすの牛を飾るという説明があります。同資料は、きゅうりとなすが使われる理由には諸説があり、はっきり分かっていないとしたうえで、どちらも代表的な夏野菜であることを一因として挙げています。
つまり、「馬は速く、牛はゆっくり」という説明は広く知られていますが、いつ、どこで現在の形が始まったのかまで一つの由来に断定することはできません。
なぜ、帰りは「ゆっくり」なのか
精霊馬と精霊牛には、お盆の短い時間を少しでも長く一緒に過ごしたいという気持ちが映っています。
迎えるときは早く来てほしい。送り出すときは名残を惜しみながら、ゆっくり帰ってほしい。野菜で作った小さな乗り物は、亡くなった人を身近に思う家族の感情を、目に見える形にしたものと考えると分かりやすいでしょう。
盆行事は、単独の飾りだけで成り立つものではありません。提灯を持って先祖の霊を迎えたり、墓参りをしたり、盆棚へ供物を並べたりと、さまざまな行為が組み合わされています。精霊馬と精霊牛も、その一部として伝えられてきました。
飾る時期や向きに全国共通の正解はない
一般には、7月または8月の盆入りから盆明けまで飾られます。しかし、お盆を7月に行う地域と8月に行う地域があり、旧暦に近い日程で営む地域もあります。
精霊馬を家の内側へ、精霊牛を外側へ向けるという説明もありますが、反対の置き方をする地域や、期間中に向きを変える家庭もあります。また、二つをまとめて「精霊馬」や「牛馬」と呼ぶこともあります。
初めて飾る場合は、次の順に確認すると安心です。
- 家族や親族に、これまでの飾り方を聞く
- 地域の寺院や自治体、郷土資料館の案内を確認する
- 宗派の考え方に従う
全国向けの記事だけを見て、地域の習慣を「間違い」と判断しないことが大切です。
精霊馬の簡単な作り方
用意するものは、きゅうりとなすを1本ずつ、足にする割り箸または竹串です。
- 割り箸を適度な長さに切る
- きゅうりとなすの安定する位置へ4本ずつ刺す
- 倒れないよう、足の角度を少しずつ調整する
- 盆棚や仏壇の前など、家庭の習慣に合う場所へ置く
包丁や先のとがった串を使うため、子どもと作る場合は大人が付き添いましょう。傷んだ野菜を長期間室内に置かず、衛生面にも注意が必要です。
お盆が終わった後はどうする?
以前は川へ流したり、送り火で焚いたりする地域もありました。しかし現在は、河川への投棄や家庭での焼却が、環境面・安全面・地域の規則から適切でない場合があります。
現代の家庭では、地域のごみ分別に従い、感謝を込めて紙に包んで処分する方法が現実的です。寺院や地域の行事で引き取りがある場合は、その案内に従ってください。
飾った野菜は室温で時間が経ち、串も刺さっているため、食べることは避けた方が安全です。
地域が変われば、迎え方も変わる
農林水産省の資料では、沖縄県には先祖のための供物として、さとうきびを用いる習慣があることも紹介されています。精霊馬を作らない地域や家庭もあり、「作らないからお盆を大切にしていない」ということではありません。
国立歴史民俗博物館の研究が示すように、七夕や盆の行事は、水や季節の循環、精霊を迎える準備など、複数の習俗と関係しながら伝えられてきました。一つの由来だけで日本全国の盆行事を説明するのは難しいのです。
きゅうりの馬となすの牛は、全国共通の厳格な作法というより、地域の暮らしの中で形づくられた「迎えたい、名残惜しい」という思いの表現です。形だけを覚えるのではなく、誰を思って飾るのかに目を向けると、小さな夏野菜の飾りが少し違って見えてきます。

